高知県東部の訪問風景_トリミング
地方における看護職確保の現実と挑戦 ~教育と実践の現場から見えるもの~

高知大学医学部看護学科 准教授/特定非営利活動法人なかやま楽校(がっこう) 副理事
寺下 憲一郎

高知県は高齢化率35.6%と全国第2位であり、県土の83.7%を森林が占める全国有数の中山間地域である。この地理的特性から、都市部への人口集中と山間部・過疎地域の人口減少が同時に進行し、医療機関への通院が困難な地域も少なくない。中でも高知県東部では医療・介護資源が限られており、住み慣れた地域で暮らし続けるためには訪問看護をはじめとする在宅医療・介護の充実が不可欠であり、その担い手となる看護職確保は喫緊の課題となっている。

看護小規模多機能型居宅介護なかやま楽校 外観

私は高知大学で看護教育に携わる一方、現役の訪問看護師として高知県東部で活動し、訪問看護ステーションと看護小規模多機能型居宅介護施設(以下、看多機(かんたき))の運営にも携わっている。教育と実践の双方に関わる立場から感じるのは、地域看護の重要性に比べ、その魅力や専門性が十分に伝わっていないという現実である。

訪問看護では、立地や住環境、家族構造などが異なる利用者宅で、看護師が状況を的確に判断し、必要な医療やケアを提供することが求められる。また、看多機では、「通い」「訪問」「泊まり」を柔軟に組み合わせながら利用者と家族の生活を支えている。医療依存度の高い利用者や終末期の利用者も多く、多職種と連携しながら限られた医療資源を活用する地域看護には、高い臨床判断力と実践力が求められる。

しかし、この専門性の高さが人材確保の難しさにつながっている。訪問看護では看護師が単独で判断し対応する場面が多く、病院のように常に同僚に相談できる環境ではないため、経験の浅い看護師ほど心理的負担を感じやすい。また、高知県東部のような中山間地域では、長距離の移動やオンコール対応など、都市部と異なる負担も大きい。さらに、多くの看護学生は教育体制やキャリア形成を重視して大都市や急性期病院を志望する傾向がある。実際に、全国の看護師の84.2%が病院で勤務している一方で、訪問看護ステーションで勤務する看護師は4.3%にとどまっており(日本看護協会. 2026)、在宅医療の需要拡大に対して人材供給が追い付いていないことが、地方の訪問看護体制継続に大きな影響を及ぼしている。

看多機での体操風景

これらの課題解決には、処遇改善などの制度的支援に加え、教育段階から地域看護の魅力を伝えることが重要であると考える。しかしながら、学生が地域看護を学ぶ機会は講義や実習以外では決して多くない。そこで私は、教育と実践の双方に携わる立場を生かし、看多機でのボランティア活動を通じて、利用者との交流やへき地医療の実情、地域における看護師の役割を体験的に学ぶ機会を提供している。地域で暮らす高齢者の生活に直接触れる経験は、学生にとって地域看護の価値や専門性を実感し、将来の進路として地域医療を選択する契機になると考えている。

高知県は日本の超高齢社会を先取りする地域である。この地域で培われる看護実践と人材育成は、全国のへき地医療・在宅医療のモデルとなる可能性を秘めている。大学教員と訪問看護師という二つの立場から、教育と実践を結び付けながら地域看護の魅力を次世代に伝え、地域に根差した看護職の育成と確保に今後も取り組んでいきたい。

【公式Instagram】高知大学医学部看護学科 高齢者看護学@kochi.u_geriatric_nursing

 

【参考文献】
日本看護協会.『日本看護協会調査研究報告 <No.103> 2026 2025 年 看護職員実態調査 報告書』. 2026, p.8,(11)現在の勤務先 – 表13 現在の勤務先【離職中を除く】,(”https://www.nurse.or.jp/nursing/statistics_publication/publication/research/index.html”),(2026年7月16日).