
兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会但馬ブロック 顧問
関西医科大学看護学部 講師
山本 大祐

兵庫県北部に位置する但馬地域は人口減少と高齢化が進む、典型的な中山間地域です。地域の約8割を山林が占め、冬季には積雪によって移動に困難を伴うことも少なくありません。一方、人と人とのつながりは豊かで、人々が長年育んできた暮らしや文化が色濃く残されています。私は、この但馬地域をフィールドに訪問看護師や家族介護者を対象とした研究を行いつつ、地域の看護職の皆さんとともに学び、地域の看護を支える活動を続けてきました。その中で、中山間地域には、これからの日本の看護の未来につながる多くの学びがあると感じています。
都市部で看護を学ぶ学生や看護師に、中山間地域で働く看護師について話すと「訪問看護師を続けることは大変そう」とよく言われます。医療や介護資源が都市部ほど充実しておらず、訪問看護の場合は積雪の中で移動や長距離移動など、都市部にはない苦労をイメージさせるようです。しかし、そのような「大変さ」以上に、豊かな人々の暮らしを感じることのできる地域であることに魅力を感じています。
病院で出会う人は患者で、地域で出会う人は生活者です。その人らしい暮らしは病院だけでは見ることができません。だからこそ、看護は病気だけでなく、その人が歩んできた人生や大切にしてきた暮らし、家族との関係、地域とのつながりを理解する必要があります。中山間地域における看護実践は、そのことを私たちに改めて気づかせてくれます。
但馬地域で在宅看取りまで介護した経験のあるご家族から看護の本質について改めて教えられた場面がありました。ご家族は、「訪問看護師さんは週に一度しか来ないのに、玄関で『こんにちは』と声が聞こえた瞬間、その日の私たちの様子を分かってくれているように感じた」と語ってくれました。家族の言葉にならない思いを感じ取り、安心を届けていた訪問看護師の実践の積み重ねが、家族にそのように感じさせたのかもしれません。
そして、療養者を亡くされた別のご家族からは、「家族(療養者)が亡くなったことも悲しかったけど、いつも来てくれていた訪問看護師さんに会えなくなることの方が寂しかった」と語ってくれました。訪問看護師が、家族の暮らしの中に入り込み、不安や喜びを共にしながら歩んできた様子が目に浮かびます。

これらの話から、中山間地域には「人と人とのつながり」という大きな資源があることに気づかされました。近所の人が「元気か?」と声をかけ、民生委員も気にかける。介護職やケアマネジャー、診療所の医師が互いの顔を知り、「ちょっと気になったから…」と自然に声をかけ合える関係があります。この豊かな日常のつながりが療養者や家族の安心を支えています。
中山間地域の看護職の役割は、医療資源の不足を補うことだけではありません。地域にある人の力、家族の力、住民同士の支え合いを見出し、それらを結びつけながら、その人らしい暮らしを支えることです。このような看護実践の積み重ねが、日本の地域包括ケアを支える礎になると信じています。
人口減少や高齢化は、やがて都市部も向き合う課題です。中山間地域で育まれてきた看護は、決して特別なものではありません。人々の暮らしを支え、人と人のつながりを生かす看護は、日本の看護がこれから目指すべき姿なのではないでしょうか。中山間地域にこそ、日本の看護の未来を考える原点があると信じています。