
高山市国民健康保険南高山地域医療センター高根地域診療所
高原 文香
へき地ではたらく魅力とは何だろうか。長年へき地で勤務しており、改めて魅力と考えてみてもよくわからないのだが、1つのエピソードとともに考えてみたい。
昨年4月に他県の病院で勤務していた看護師が、移住して当センターに勤務することになった。10か月余り勤務してみて、魅力を感じるか聞いてみた。その看護師は、色々迷って先輩看護師の姿は「患者さんとの距離が近い、家族とは言わないが他人という気がしない、患者を大切に思っているように見える」と話した。患者を大切にしていることがなぜ魅力なのか、と聞いたが返答に困っていたので、ある患者の話をした。
その患者はがんの末期。最後の時間を家で過ごすことを選択した。最後は苦しみの中で、家族に「ダムに放り投げてくれ」と言った。その患者の家の裏側にはダムがある、といえばどんなへき地か想像できるだろうか。標高900m、山と山の谷間にあるダム沿いにその方の家はある。例えば病院の緩和ケアに入院していて、その患者が同じことを言ったら、看護師は「それくらいつらいのだろう」と思うだろう。しかし、私はそのダムをいつも見ている。診療所もそのダム沿いにあるからだ。白樺の新緑のダム、紅葉が水面に映るダム、水墨画のような結氷のダム、その患者が過ごした終末期は雪が降る12月だった。患者が話すその冬のダムを鮮明に思い描くことができる。患者のその言葉を聞き、頭の中に景色が思い浮かんだ時、その言葉の意味を生々しく、重く、また、温かく、これまでの人となりと共に手に感じることができる。ほかの患者でも外来で話をしている時、外にあるトイレ、段差の多い家の中の映像を、頭に思い描きながら話ができる。同じ景色を共有しているということが、患者を他人という気がしない、大切にしていると見えているのではないだろうか。
話し終えるとその新人看護師は「色んな医療があるんですね」といった。当然のことだが病院がよくないということではない。しかし、看護師として患者の言葉をリアルに感じ取ることができる機会があることは、キャリアとしても重要な意味を持つのではないだろうか。ただし、誰もがへき地に行けばリアルに感じ取れるとは限らず、感じ取れる感性があるかは重要だ。少なくとも先輩看護師が患者を大切にしているように見え、それを魅力的だと感じたその新人看護師は、きっと感じ取れる人だと思っている。
看護師がなぜへき地医療においてキーパーソンと言われるか。医療だけでなく生活も含め患者を看る視点が、人を看る深い理解となりそれに基づいて、多職種の中でハブとなっているからではないだろうか。多くの看護師に、急性期、慢性期、予防医療も経験でき、生活の中でのリアルな看護を学べるへき地に来ていただきたい。