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山間へき地において「生きる」を支える-診療所看護師にできること-

公益社団法人地域医療振興協会 六合診療所
看護師 山田 明美

地域と施設紹介

私の勤務する六合診療所は,群馬県の北西部に位置する中之条町六合地区にあり,標高600m~2300mの山間地域で寒冷積雪地帯にあります.六合地区には特色となる産業がなく,一番近いコンビニまで車で片道30分.信号機も押しボタン式の信号機が教育のため小学校の前に1つあるだけ.人口も年々減少し1,000人を下回り,高齢化率も54%を超え,出生数も年間0~2人程度という山村過疎地域です.保健・医療・福祉の社会資源も,役場,社会福祉協議会,小規模多機能施設と当診療所のみという地域です.
当診療所はへき地診療所の指定を受けているため,医師は県からの派遣で義務年限内の自治医科大学の卒業生が3年交代で1名勤務しています.看護職は3名.歯科も併設されており歯科医師,歯科衛生士,歯科助手,事務職の全9名のスタッフで運営しています.診療所内だけでなく,地区内5か所にある出張診療所に月1~2回出向いて診療したり,訪問診療・訪問看護等の在宅医療を中心に活動しています.

へき地看護に関わるきっかけ

私とへき地看護との関りは,自治医科大学附属病院に勤務し10年目の春にへき地支援として現在の勤務地である六合診療所の前身の六合温泉医療センター(以下 医療センター)へ派遣されたことから始まりました.3月の暗い雲行きの中,道端に雪が残る山道を「どこまで連れていかれるのだろう.こんな山の中で本当に生きていけるのだろうか…」と不安に思いながら車に揺られて来た日のことを今でもはっきりと覚えています.
派遣当時は,自分の看護師としてのキャリアに対しそれなりの自信を持っていました.しかし,地域での看護実践が始まって直ぐに今までどれだけ恵まれた環境の中で仕事をしてきていたかということ,そして看護師としての自分自身の未熟さを思い知らされました.大学病院の病棟でしか勤務した事のない自分が,地区内唯一の医療機関として地域を支える役割を担っている医療センターで,看護師としてだけでなく,スタッフをまとめ地域に貢献していくことが本当にできるのかという大きな不安へと一気に変わりました.

へき地看護の実際

へき地診療所は受診患者の年齢も高齢者を中心に0歳から90歳~100歳代と幅広く,受診理由も様々.慢性疾患を中心にした内科系疾患や,腰痛・膝痛等の慢性的な整形外科的疾患だけでなく,周辺が山に囲まれているため,春や秋にはキノコ狩りの最中にクマに襲われての受診や崖からの滑落,ハチに刺されての受診やマムシに噛まれての受診.夏には地区に帰省したり,観光に訪れる観光客等地区外者の受診が増加.冬には雪による転倒等,地域ならではの健康問題による受診があり,看護師としてそれらに関する幅広い知識と限られた時間の中で速やかに対応できる技術が必要でした.検査やレントゲン,薬局業務,中材業務等診療所内の総ての業務を行わなければならず,それに関わる知識や技術も必要となり,大学病院で専門分野の病棟の看護業務だけに専念していた自分にとって戸惑いと驚きの連続でした.また,介護保険など保健・福祉分野の知識の不足も痛感し,大学病院で築き上げた知識と経験があれば何とかなると甘く考えていた私に,それまで培ってきたものだけではどうにもならないという現実を突きつけられたように感じました.更に医師も1人体制であり週末や夜間帯に医師不在となることがあり,患者や老健利用者の体調変化や急変時に医療的な判断を求められることもあり,看護師としての判断や知識が問われることが多々あり頭を抱える毎日でした.しかし,それと同時に地域における継続した医療・福祉および看護活動の重要性も身に染みて感じ,業務の繁雑さと忙しさの中で,これからへき地医療・へき地看護に携わっていく自分にできることは何かを考えるようになりました.

へき地での看護師としての挑戦

診療報酬の改正で在宅医療が推進され,地域で生活する高齢者や慢性疾患を抱えながら生活する人々が増加し,治療や看護を外来で継続しなければならない状況の中で,身近な医療機関の看護師が積極的に疾病・症状管理だけでなく進行予防や早期発見,早期対応等の支援を行っていくことが重要で,プライマリーナースとしての役割を発揮することが求められていると実感しました.また,高齢化社会の進展に伴って増大してきた医療費や介護費用を適正に維持するためにも,これからの生活習慣病の予防や介護予防等の健康維持・増進に重点をおいた看護活動を展開していくことは,地域の看護職が住民から期待される大きな役割であると考え,看護職としての専門性を発展させていくことが地域を支える医療福祉機関の看護責任者としての役割であると考えました.そして,その役割を果たすために,まずは介護保険の知識を習得するため介護支援専門員の資格を取得しました.その後,地域における看護管理の知識や技術を修得することが必要であると考え,自治医科大学大学院看護学研究科に進学し働きながら様々なことを学びました.もちろん仕事をしながらの学びは正直簡単なことではなく,決して器用ではない自分にとっては大変で困難なことばかりでしたが,職場の理解と協力が得られ,地域の人々のニーズに対応した看護サービスを提供するための看護技術の改善や体制づくりに向けて楽しく学ぶことができ,今まで気付かなかった看護の視点や役割等の発見にも繋がり,自分のやるべきことが少しずつ明確になっていきました.そして実際の現場において,診療所外来における看護体制・看護業務の見直し,在宅医療の充実のための医師との協力体制づくり,行政保健師・施設看護師・地域拠点病院看護師等の地域看護職との連携体制の確立,訪問看護活動の充実のための取り組み,老健における在宅復帰に向けた体制の検討や生活習慣病の予防や介護予防等の健康維持・増進に重点をおいた看護活動等,看護サービス提供体制の改善に向け取り組んでいきました.また,居宅・包括・施設ケアマネジャー,ヘルパー等の地区内の多職種や他事業所との連携体制の構築や強化,地区外の保健医療福祉の関係者との連携促進,そして現在は地域住民と協力しながらの健康づくりや地域の活性化に向けた活動等にも取り組んでいます.

地区内唯一の医療機関としての取り組み『お達者ミニデイ』

この取り組みの1つが,令和6年7月から診療所看護師が中心となって開催している『お達者ミニデイ』です.へき地診療所の医師は義務年限内の医師であるため,週に1度研究日があり診療所は休診となります.その休診日を活用し,月に2回程度,診療所の待合を利用し『お達者ミニデイ』を開催しています.診療時間外にも診療所に来てもらい,地域住民とともに健康づくりの活動を行うだけでなく,講師として参加してもらうことで個人の生きがいや自己実現への取り組みを支援するとともに,ボランティアやミニデイへの参加を通して住民の社会参加や生活機能全体を向上させ,地域全体が活性化することを目的に開催しています.対象は年齢・性別問わず誰でも参加することができ,参加費は無料で,希望があれば送迎も行っています.実施状況としては、毎回5人~10人前後の参加者で,多い時は30人となることもあります.年齢層も,小学生から80歳代の方まで幅広く,世代や地区を超えて参加してくれており,住民同士はもちろんのこと,看護職以外の診療所職員も積極的に参加・協力してくれているため,普段診療所に受診していない住民とも楽しみながら交流することができています.診察だけでなく地域の人々が診療所に気軽に立ち寄り,悩みや心配事を話すことができる相談窓口としての役割を,地域で唯一の医療機関として担うことができればとも考えています.今後は,診療所内の開催だけではなく、地域に出向いての開催や社会福祉協議会との共催もしていきたいと考えており,住民との交流を通して引き続き心配事や相談を受付け,潜在している課題に早期に気付き,地域の多職種と連携しながら必要な支援につなげられるよう関わっていきたいと思っています.

へき地で看護することの魅力

へき地では限られた資源や人材だからこそ,1人1人の専門職が地域の人々を支えたいという熱い思いをもって活動しています.限りある資源を有効に効率的に活用する工夫や,地域の特性を生かした新たな支援体制を構築していくことが重要で,そこに携わるすべての専門職が互いに尊重し合い,補い合いながら協力し合えるよう地域の看護職が調整していくことが重要な役割になると思っています.どんな環境であってもどんな状況であっても,そこに住む人々にとっての幸せが何かを考えながら継続的に看護を展開し,診療所職員だけでなく地域の専門職や時に住民と協働・連携しながら住民の「生きる」を支え,住み慣れた地域で自分らしく元気に生活できるよう自分たち看護職に出来得る最良のサポートを目指してこれからも活動していきたいと思っています.
是非、一緒にへき地での看護を経験し、看護の魅力を感じてみませんか!