へき地は保健師の専門性を問い直す場である

自治医科大学看護学部
講師 青木 さぎ里

「へき地の魅力を伝えてほしい」。

そのような依頼を受けるたびに、私は少し考え込んでしまう。海がきれい、自然が豊か、人が温かい。もちろんそれも事実である。しかし、長年離島やへき地で保健活動に関わる中で感じている魅力は、少し違うところにある。

へき地での保健活動は、「人手不足」や「医療福祉資源の不足」という言葉で語られることが少なくない。実際、小規模自治体では、一人の保健師が母子保健から高齢者保健、感染症対応、災害対応まで幅広い役割を担うことも珍しくない。中には常勤保健師の確保そのものが難しい自治体もある。

しかし、へき地の現場で見えてくるのは、「ない」「できない」という現実だけではない。都市部では、制度や専門職の機能分化によって支援が成り立っている。一方で、へき地では同じ資源を前提にすることができない。そのため、「誰が担うか」よりも、「地域としてどう成り立たせるか」が重要になる。診療所、行政、学校、福祉関係者、地域住民。それぞれができることを持ち寄りながら支援を組み立てていく。へき地では、その過程が見えやすい。

特に、常勤保健師が不足したときには、「何を残し、何を手放すのか」を考えざるを得なくなる。多岐にわたる業務を限られた人数で担う中で、保健師は「この地域で本当に残すべきものは何か」を考え続ける。そして、保健師でなくてもできることは他職種や地域住民に託す。その中で、保健師は「保健師とは何か」「保健師だからこそ担うべき役割は何か」を自問自答することになる。

私がへき地で出会った保健師たちは、単に事業を実施しているだけではなかった。地域で起きている出来事をつなぎ合わせ、まだ誰も課題だと認識していない健康課題を見出し、それを地域で共有し、支える仕組みをつくっていた。

制度と暮らしの間をつなぎながら、視点は現在だけでなく過去にも未来にも向けられている。なぜこの状況が生まれたのかを地域の歴史や暮らしの背景から考え、その先に起こり得る健康課題を見据えながら地域と向き合う。地域全体を見渡し、人々の暮らしと健康を支える仕組みを描いていく。その役割こそが、保健師の専門性の根幹なのではないかと思う。

人口減少、高齢化、専門職不足。これらはもはやへき地だけの課題ではない。これから日本各地で、「限られた資源でどう地域を支えるか」が問われるだろう。その意味で、へき地は人口減少社会の先行モデルである。そして同時に、保健師の専門性の本質を問い直す場でもある。

もし保健師という仕事の面白さを知りたいなら、へき地を訪れてみてほしい。そこには、制度と暮らしの間で試行錯誤しながら、人々の生活を支える保健活動の原点がある。